A:狂気の鮫人 ペタロドゥス
先日、エオルゼアの友人から、バイルブランド島にて、祭りの会場が、二足歩行のサメに襲撃されたと聞いたんです!
これが事実であれば、興奮を隠せませんよ!
なぜなら、私が調べたニームの神話に、これと似た「ペタロドゥス」という怪物を描いたものがあるんです!手足があるサメですよ、正気とは思えませんよね!もし、さらに古い時代から、ペタロドゥスが存在したのであれば、ニームで語られていた神話も事実を基にしていたことになります!私はね、それを証明したいんですよ!
~ギルドシップの手配書より
https://gyazo.com/31ac83e4838671645508cda36046d7b4
ショートショートエオルゼア冒険譚
アルデナード小大陸の西側に浮かぶバイルブランド島。
この島の南半分がおもにラノシアと呼ばれる地方であり、都市国家リムサ・ロミンサが領有する地域となっている。このバイルブランド島には古の昔、ニームという都市国家が存在した。一説ではニームは浮遊する浮島に都市がつくられていたと言われていて、その名残が浮遊遺跡として1500年経った今も残っている。ニームで有名な逸話と言えばトンベリ病の流行が挙げられる。体が丸く変形し、緑色に変色してトンベリのようになってしまう病気なのだが、この病を恐れた古代ニーム人は感染者をワンダラーパレスに監禁して湖に沈めてしまったという話なのだが、このワンダラーとはニームで盛んに進行されていた旅神オシュオンの別名である。つまり、信仰する神の神殿に奇病に掛かった病人を監禁して湖に沈めたというなんとも二重三重に酷い話ではある。
そんなニームに伝わる神話に鮫人間は登場する話がある。その神話では元々この鮫人間はただの人間の男だった。男は腕のいい漁師であり、漁に出れば常に大漁で帰ってくる。その運の良さに周りの漁師は「彼は幸運の女神に愛されている」と噂していたという。だがこの噂は実は的を射ていて、彼は漁の女神と恋仲にあったらしい。だが漁の女神のおっとである海の神に二人の不貞がバレてしまい、怒った海の神は妻である漁の女神には何も告げず、男を鮫人間の姿に変えてしまったのだそうだ。男が鮫人間になった事を知らない漁の女神は男が自分を捨てて突然居なくなったのだと思い込み、二度と人間の前には姿を見せなくなった。鮫人間は人間の里に戻る事も出来ず、漁の女神の誤解を解くこともできないまま天涯孤独に海の中で生きる事となり、晩年には人の心も失い人間を襲うようになり、本物の怪物として生き続けたという話だ。不貞を戒める神話として文献にも残っている。
ところが数年前の事。毎年夏にコスタ・デル・ソルで催される紅蓮際の会場をこの鮫人間が襲うという事件が発生したことで、ニームの歴史を知る者は騒然となった。この1500年以上前に語られた神話上の怪物が、まさか実在する生物だとは誰も思っていなかったのだ。だがどんなに調べても、調べても、「神話上の怪物に似た生物が現代にもいた」以上の事は分かり様がなく、調査は打ち切られていたらしい。
果たして現代に現れた鮫人間とこの創造生物の実験施設であるエルピスに居る鮫人間が同種の存在なのか、それを調べることによってニームの神話が事実を元に作られた話であるのか、あるいは完全なおとぎ話なのかの判断が下せる、学術的に重要な調査なのだと依頼に来たその民族学者の男は熱弁を振るった。
まぁ、言うのは簡単だ。
あたしと相方は全力で走るとそのまま慌てて岩陰に隠れた。奴の放った水の玉が隠れた岩に当たりバシン、バシンと音を立てて弾けた。水とはいえ、高い圧力で圧縮された水は当たり所が悪ければ笑い事では済まない。
「あれのどこが鮫人間なん?怪獣やん、怪獣!」
岩にピッタリ背をつけた姿勢で、盾役として何発か奴の攻撃を受け止めた相方が蒼い顔をして言った。話では鮫の頭に人間の体と手足が付いているというなんとも簡単な表現になるんだろうが、実際についているのはどんな筋トレをしたらこうなるのか聞きたくなるような丸太の様な筋肉隆々の腕とバッキバキに筋張った短く太い足だ。おまけに鮫の頭はホオジロザメのソレで、そんな体と頭で嬉しそうにドシドシ追いかけられるのは想像を絶する恐怖だ。
「ホオジロザメって肉食生物として完成してるから、太古の昔から進化してないんだって」
あたしは何か言わなきゃという強迫観念に捕らわれて言った。
「うん、そっか。それで?つまり?」
相方が無感動に聞き返す。
「つまり、奴はやっぱりニームの時代以前に肉食生物として完成してて進化が止まってるみたいよねっていう事が分かった」
相方が眉間に皺を寄せて難しい顔になる。ものすごく考えているときの顔だ。ヤダ可愛い。
「……。それ、今役に立つ情報?」
「んー…、ううん、多分どーでもいい情報かな」
頭の上から埃や小石がパラパラと落ちてきた。あたしと相方は恐る恐る上を見上げると、岩の天辺に両手を突いた状態で、真上からホオジロザメがあたし達を覗き込んでいた。ホオジロザメって食らい付くときに目がひっくり返って白目になるって知ってた?あたしは奴が喰いついて来たこの時初めて知った。
「ぴぎゃあああああああああっ!!」
何とも情けない声を上げながらあたしと相方はロケットスタートでまた逃げ出した。